新規事業というと、対象ドメイン探し・事業案の構築・収益のシミュレーション・顧客セグメンテーションなど、事前準備に焦点が当たりがちである。
ただし、実際のところは立ち上げ段階が急所となる。
事前にどれほど素晴らしいドキュメントがあろうが、実行段階で機動的に戦略を修正しながら自社の方針を定めなければ、極めて高い確率で失敗する。
むしろ、事前に素晴らしいドキュメントがあると戦略の変更がためらわれてしまうので、逆効果ですらある。あれほど努力して対象セグメントを定め、アンケート調査も行い、訴求メッセージも定めた。しかし、実地に出たところ全然売れない。このような状況であっても、戦略を修正しづらくなってしまう。
今回は「機動的な戦略修正」に必須である企画営業の所作について記述していこう。
ここではBtoBのビジネスを想定して説明する。
企画営業は「売れる」という事実をつくる
事業立ち上げの際には、商品も訴求メッセージも体制も、すべてが流動的である。このような不確実な状況において、唯一頼りになるのは「売れる」という事実、つまり顧客ニーズと自社ができることがマッチしたという事実である。
事業をとにかくこの「売れる」という状態に導くことが、企画営業の最大の使命となる。
「売れる」という事実は事業戦略の王様である。
文章上だけに登場する「自社の強み」も「解決する課題」も、すべては「売れる」という事実の前には吹き飛ぶ。
事業においては、頻繁に「よく分からないけど売れる」という期間が登場する。私が取り組んできた事業も、おおよそ以下のような経過をたどる。
- 大きなテーマを発見する
- 散弾銃のようにランダムな企画営業を繰り返す
- まれに「売れる」
- 売れた商品および顧客セグメントに特化し、やりきる
- 振り返ると「売れた」理由を説明できる
どうやら「売れる」という現象は極めて複雑であり、予測可能なロジックに落とし込むのは大変難しいようである。
- 相対的な自社の競争優位性
- 自社の方針
- 偶発的にニーズが盛り上がっている顧客との出会い
これらが重なり、「売れる」状態となる。そのかなりの部分は偶然の産物である。
さらにいうなら、顧客ニーズはコントロール不能だ。顧客側の社内議論が偶然盛り上がり、実際に検討しているタイミングを捉える必要がある。
自社が接点を持たない新規顧客へアプローチして、相手のニーズが盛り上がっている確率はそれほど高くない。
このように不確実性が高いからこそ、実際に対価を支払ってくれる初期顧客の存在は重要だ。この顧客と学習ループに入ることができれば、事業を現実に合わせて修正していける。
成長事業は成長企業とつくる
前回の記事でも記述したが、「明確な成長目標を持ち、リスク・リターンを考慮しながら新たな技術・手法を取り入れ、投資していく会社」(これを正常な投資サイクルと呼ぼう)はそれほど多くない。
企業活動として当たり前に思えるが、当たり前を当たり前に実行するのは難しいものだ。
上のような「野心的な顧客」は、多くの場合、事業を成長させている。当たり前が当たり前にできているからだ。
そうすると、初期顧客は成長企業であったほうが望ましい。正常な投資サイクルがない企業に何を持っていっても、「実績に乏しい」「社内を説得できない」「自分はよいと思うが予算が確保できていない」などの理由で拒否されるだろう。この状況に対して、相手の質問に答える資料を繰り返し持っていったり、デモをしたりしても無駄である。
企画営業としてはこのような罠にはまらず、野心的な成長企業でないと思ったら即座に優先度を下げる判断が欠かせない。新規事業の立ち上げ時は、特に時間が貴重な資源となる。無駄だと思ったなら、提案活動を停止するべきだ。
成長する事業を生み出したいなら、正常な投資サイクルを持つ成長企業と共に創出するべきだ。下降サイクルに入っている企業は、理由もなく下降しているわけではない。正常なサイクルが崩れているから下降しているのであって、外部からのサービスだけでそれを反転させることは難しい。
外部から提供されるサービスは加速の材料であって、原動力そのものにはならない。
逆に、この層、イノベーター理論でいうところのラガードは、「他社がやっているから自社もやる」という判断をする傾向にある。それならば、サービスが十分に成熟し、実績も増えた段階で提供すればよい。
新技術が有用であることを自社で見極められる企業は、「実績がある」という理由だけで高騰した価格にプレミアムを支払う必要がない。まだ普及していない段階で、迅速に新たな手法を取り入れられる。
自らが成長企業でありたいなら、新たな手法を他社の判断結果、いわば「実績」だけで判断するのではなく、内容を自社で判定できる体制を持つべきだろう。
他社の判断結果ですべてを判断するというのは、何をするにも人気ランキングを参照している状態である。
企画営業の基本動作を高速で回す
さて、企画営業、すなわち実質的な事業リーダーを担当することになったら、何をするべきだろう。
基本所作は以下となる。
- ターゲット選定
- アポ取り
- 提案作成(企画)
- 提案(営業)
- クロージング
- PMと連携したプロジェクト推進(フロントには立ち続け、品質担保も続ける)
- 商品開発のディレクション
これをひたすら、淡々と繰り返すだけである。この活動は必ずしも愉快ではない。さまざまな理由で断られ続けるうえ、そのときの扱いもひどいものだ。しかし、この不愉快さが、他人が事業立ち上げをやらない理由でもある。ここで試行回数を落としてはいけない。
淡々と繰り返すとは書いたものの、思考停止で繰り返すわけではない。
特にターゲット選定・営業でのメッセージング・商品開発方針などは、週次どころか2〜3日に一度はアップデートするべきだ。この学習サイクルの速さこそが成否を決定する。
「当初の想定と違った」ことは失敗の言い訳にはならない。修正の機会はいつでもあるのだ。
「当初想定した計画と異なる内容を実行しようとすると、社内説得に3か月かかる」ということであれば、そもそも体制自体が事業立ち上げに向いていない。どのような事業であろうが、極めて失敗確率が高い状態でスタートしているということになる。
ちなみに、事業リーダーが顧客フロントに立たない事業は、その時点でハンディキャップを持っている。
必要な技術はその都度獲得する
新規事業をやっていると、過去に取り組んだことがない内容が大量に登場する。
「顧客のニーズは分かったが、うちのエンジニアが取り組んだことのない技術を扱う必要がある」という状況で、どうするだろうか。
基本的には、勉強してできるようになればよい。自社での習得が難しければ、採用する、外部と組むといった手段もある。
「会社の強み」「過去に取り組んできたこと」に縛られ、事業戦略の王様である「顧客ニーズ」を無視するべきではない。
例えば、「何らかのスポーツで世界チャンピオンになってほしい」というタスクが発生したなら難しい。しかし、ライブラリも書籍も存在し、すでに他社が実用化している技術であれば、対応する方法はある。
基本的に、ビジネスにおいて「世界チャンピオンになる」ような困難なタスクに直面することは相当まれである。顧客ニーズに忠実に、世の中にある技術を柔軟に学び、バランスよく組み合わせる能力のほうが格段に重要だ。
必要な能力が生じたら、その都度、獲得する方法を考えればよい。「他人にできることは大体できる」という前提に立ったほうが、事業の選択肢は広がる。
まとめ
- 企画営業は、何に集中するかを高速に判断する必要がある
- 企画営業は実質的な事業リーダーになる(体制図が何であれ)
- 成長サービスを生み出したいなら成長企業と共に取り組む。衰退企業との対話にとらわれない
- 必要な技術や能力は、その都度獲得する