特にソフトウェアを開発している人々にとっては「どのようにMOATを構築するか」が大きな課題となっているだろう。(MOAT: 競合に対する塀の概念)
従来、積み上げられたコードの物量がMOATと呼べた(これ自体、元々怪しいが)時代は、コードさえ積み重ねていれば迷わずに済んだものが、今では瞬間的に大量にコードを生成できる。
では、自社の「強み」とは何か。外部から観測可能な仕様がある状態で防衛力はあるのだろうか。
このような迷いから具体案がないにも関わらず「弊社には独自のデータがあるから勝てる」という主張が出てしまったりする。
今回はこのような環境下において「持続的な強みは開発環境(及び学習ループ)」という意見を述べてみたい。
決定的な差別化は開発環境の整備
ノートPC一台でできるような開発では競合優位性は非常に不安定である。世界中誰しもが競合になり得る。この状況から脱却するには他社では手に入りづらい開発環境を持つということが最も直接的な差別化への考え方となる。
つまり、大量のGPUを使える環境、大規模ハード・アセット(発電所、航空機、建造物、加工機等)を持つということだ。
ソフトウェア自体はスーパーテクノロジーでなくとも、他社も同等の環境でなければ同じものを構築し得ないのだからこれは差別化というわけだ。
さらに、ハードウェアにはソフトウェアにはない特有のクセや相性というものが大量に存在する。これらのトラブルシューティングが知見として蓄積される。
つまり、金を使わないと手に入らない環境を入手することで他社と環境から差別化しようということだ。
自社を強くし続ける学習ループ
環境が手に入っただけでは駄目である。実際に機能し、顧客に有用なものを作る必要がある。
顧客からのフィードバックを取り入れ、環境を用いて持続的に顧客への有用性を高めていくのだ。
これを実現するには以下の3点が必要だ。
- フィードバックをくれる野心的な顧客
- 他社が手に入れづらい開発環境
- 高速で学習するリーダー
この3要素を揃え、学習ループが高速で回転し続ける状況となり、顧客の満足度が向上しているなら差別化を過度に考えなくてもよい。
顧客は自社よりもサービスの比較に熱心であり、その顧客がスイッチングを考えず満足しているというのは顧客視点での競合優位性を示してくれているからだ。
フィードバックをくれる野心的な顧客
概念としては単純だが、学習ループの完成は意外と難しい。
まず「フィードバックをくれる野心的な顧客」は非常に存在確率が低い。
通常の企業は新サプライヤーに対してストレートにフィードバックを丁寧に与え、自社の経営をよりよくしようとは思ってくれない。
ほとんどの利用者はフィードバックはくれないし、くれたとしても担当者観点で「こうだったらもっとよいかもしれない」というフィードバックであり、この言うことを聞いたとて、「よい製品」に導かれるわけではない。
担当者からして「よい」と、企業として「よい」は定義が異なる。
私の経験上、理想的な相手は「野心的に成長するオーナー企業」である。このオーナーと共によい製品を磨き上げるのが最もよい。
逆に「野心がなく、担当者インセンティブと会社のインセンティブが乖離している企業」は自社を失敗に導く悪い選択肢となる。説明のための資料作成や無償PoCに散々つきあわされ、フィードバックを取り入れても全く競争力の向上に結びつかない結果となることが多い。
学習ループを共に歩む相手は真剣に自社の経営をよくしたいと望んでいる相手でなければならない。このような相手とは日常的に出会い、議論をしていくことを推奨したい。
高速で学習するリーダー
環境、顧客がいたとしてもリーダーがいなければ何も機能しない。
そして高速で学習するリーダーは極めて希少な人材だ。
要件としては単純で、顧客のフィードバックを取り入れ、技術的な制約を考えながら製品競争力向上をリードする、ということなのだが、これがそれなりに難しい。
このリーダーは深い顧客インサイト、技術理解を持っている必要があるが数が多くない。
技術理解(リーダー自身が技術者であるアドバンテージは極めて大きい)がなければ学習サイクルは非常に遅くなる。
顧客インサイトがなければビジョンを提示できず、顧客のランダムな意見に惑わされる。
これは頑張って社外から採用し、社内からも発掘(多くの人に機会を与えるということ)を継続的にしていく必要がある。即座に解決する問題ではないからこそ、日常的な取り組みが欠かせない。
まとめ
持続的な優位性を持ちたいなら以下を持つのはいかがだろうか。
- フィードバックをくれる野心的な顧客
- 他社が手に入れづらい開発環境
- 高速で学習するリーダー
どれも入手しづらい。ループとして完成されている状態に至るのは難しい。
だからこそ完成したループは簡単には打破されない。
このループを構築することを目指してはどうだろうか。