AIの日進月歩は驚異的である。日々、モデル・半導体・エンジン等に関する大きなアップデートが続いている。少し前には難しいと思われていたタスクも急速な勢いでコモディタイズしていく。

そのような環境下でソフトウェアエンジニアリングを主力としていた企業や個人はどのような方針を取ることができるかを考えてみよう。

一応、技術は日進月歩であり、本記事で論じている内容もすぐに古臭くなってしまう可能性が高いことはご留意いただければと思う。

さて、前置きがあまり必要なテーマでもないので結論から入っていこう。以下が私が感じている事業機会4選である。

AIインフラ

これは非常に面白い。アプリケーションレイヤーが急速にコモディタイズし、AIをより活用していこうという方針を推進すればするほどに支える基盤の重要性が増す。

即ち、データベース・セキュリティ・ネットワーク・システム連携周辺である。

特にAIエージェントのように自律的に動作できるシステムはどのように管理をすればセキュアに活用できるのか、という論争には多くの企業においてまだ決着がついていないように感じられる。

セキュアにしすぎれば、重要な情報にアクセスできず、システム連携もできずhuman in the loopどころか、全てのタスクに人間の介在を必要とし本来の力を全く発揮できない。

企業には多くの制約条件が存在する。特に注目したい制約条件は以下となる。

  • 既存ITアセットを可能な限り入れ替えず活用する
  • 企業毎のセキュリティガイドライン

この制約条件内で如何に自律的に機能できるAI活用システムを使うことができるのか、というのは非常に難しく、また面白い問題である。

ちなみにだが、いくらアプリケーション開発のハードルが下がったとはいえ「ノンエンジニアが自社向けのシステムを開発し、実運用する」というアプローチが有効な範囲は限定的に感じられる(大量の失敗例を観測している)

Webサイトのコーディングや簡単なシステム(ほぼGAS実装やシステム連携したエクセルレベル・SaaSであれば数百円~2,000円程度)であれば確かに可能なのだが、保守コストまで考えると完全に知識のない人が実運用レベルまで持っていくというのは逆に高コストなアプローチに思える(現時点でよほどぼったくられていない限り)。

ローカルデモ版の開発と実運用版には巨大なギャップがあることは認識したほうがよいだろう。コンピューター関係のキャリアを歩むという方針でないならば本来の専門性に注力することを検討したい所だ。

一般に、苦労・勉強はその経験をその後活用するならば素晴らしいリターンとなるが、専門外に少し寄り道したものは活用可能性に乏しく無駄コストになるリスクがある。どの苦労をするべきか、は選びたい所だ。

業務変革型FDE

FDE(Forward Deployed Engineer) という概念が人気になった。

この概念を少し推し進めて考えよう。もし簡単なアプリケーション実装はコモディタイズするのだとすれば、常駐するのは高度な技術知識を持つエンジニアのみでなければならない、という必然性は低下する。

「いい感じにコミュニケーションができる」と「高度なエンジニアリング知識を持つ」を併せ持つものがFDEという概念だとしよう。そしてこれを同居させている人間は極めて少ない。

そうとなれば以下のアプローチが主に考えられる

A.「いい感じにコミュニケーションができる」人が「少々のエンジニアリング知識を身につける」アプローチ

B.「高度なエンジニアリング知識を持つ」人が「少々いい感じにコミュニケーションできるようになる」アプローチ

勿論、Bでなければ推進出来ないタスク(それこOpenAIやPalantirが行っているような高度技術が要求されるもの)は多く存在する。

ただし一般企業に対しては超高コスト・調達難易度が高いBがなくても実現出来るAに注目したい。

Aのアプローチで実現できる実装領域を探っていくというアプローチはかなり現実的ではないだろうか。

つまりAの部隊を持ち、良好なコミュニケーションスキルを活用しながら比較的難易度の低い実装をハイスピード・ミドルコストで実現するという事業である。これは私も取り組んでいるのだが、実に素晴らしい結果が得られている。

これを担当する人間の特性としては以下があることが重要であることにも気付かされた。

  • 良好なコミュニケーションスキル
  • 勉強熱心であること(現時点での経験は問わない)
  • 業務設計ができること

勉強熱心であることの価値は極めて高い。ここで言う勉強熱心とは、何を学ぶ必要があるか特定し、それを楽しくハイスピードに学べるということである。特に新しい技術に常にキャッチアップする姿勢自体は必須要件である。逆に「何をやったらよいか分からない」というのでは、あまり勉強熱心と言えない。

この人材の使命としてはシステム設計及び実装にある。そして、技術知見がなければシステム全体として良いパフォーマンスを発揮するシステム設計は出来ない(ここでのシステムは広義・人間の業務フローなども含む概念)。

十分な知見がなければ、高コストなアプローチをとってしまう危険性が高い。

例えば、チャットボットに「データにより自律的に学習をさせる」ことをした結果として局所的なデータに対し最適化が働く、アウトプットの予測性が悪くなる・最終パフォーマンス(正答率・トータルコスト等)はかえって悪くなる、ということを多く経験した。このような場合、敢えて自律的に学習させない方がよい、という考えも取り得る。

また、自社データでモデルをファインチューニングするというアプローチは取り組みとしては面白いが、トータルコストを考えると必ずしも優先度が高い施策とはならないことも多い。データ成型・GPU利用・評価などコストが高いため真っ先にシステム全体の性能を上げるために取り組むという位置づけではない。

更に、企業として投資したものを捨てる、ということもやりづらいため魔改造された高コスト・低性能エンジンを使い続けるというトラップにはまることも多い。

モデル自体を改変するよりも如何に汎用品を組み合わせ、うまく使えるようにするか、という工夫をする考えが現在のメインストリームであるだろう。

技術理解を前提とした業務設計ができれば上述したように技術的にチャレンジング(不確実であり、高コスト)なアプローチを取らずとも業務設計の工夫により高信頼・低コストのアプローチを提示し、実装を推進できる。

これができないと「とあるエンジンを利用しPoCしたけど現場では使い物にならなかった。あのベンダー/エンジンは駄目だ」という結果を得るためだけに費用と時間を無駄にする取り組みを大量に繰り返す恐れがある。

セキュアな計算資源の安定確保

AI活用が積極的に進めば進む程にその費用の高さに気付くことになる。やはり大量の計算資源消費を前提にしているので、とにかく高いのだ。

また、どこぞの国のどこぞの未公開企業などに完全に依存してしまっていることが多いので性能・価格の安定性は犠牲にしていることになる。完全に外部に身を委ねている状態である。

さらには、IPや個人情報などのセンシティブな情報とあってはそもそもAI活用がご法度になることも多い。

AIモデル企業自身によるクラウドAPI型での利用は初期導入が容易であるが、コスト・安定性・セキュリティに大きな課題を抱えている。

これをどうにかしなければならない。即ち以下環境を確保しなければならない。

  • コストが少なくとも予測可能
  • モデルの性能・提供が安定している
  • セキュアにデータ活用ができる

大規模な計算であればデータセンターの議論になり、比較的小規模であればワークステーションの議論になる。

ここではエンジニアリングの知識も重要であるのだが、とにかく調達力である。

業界にネットワークがあり、調達・流通のキャッシュ・与信がある、という状態が重要だ。

やや不動産屋的特性を帯びてくる。

私が10代のときは憧れのゲーミングマシン用グラボという位置づけであったGeForce, Radeonの技術がこのような状況になるとは….時代の変化とは恐ろしいものである。マザーボードにメモリをジャカジャカ差したりしていた時代である。懐かしいね。

ハードウェアとの組み合わせ

既存ハードウェアを活用したサービスは意外と作れてしまうものも多くある。ありがたいことに、開発者向けのツール・技術は拡充を続け、昔よりも格段に多くのことが開発しやすくなっていると感じる。

試しにセキュリティ用カメラ(既存カメラ+解析)を自作してみた。

開発モチベーションとしては警備会社からの見積もりが高かったことである。自分で劣化版なら作れてしまえそうである。

一旦自作でGPUを使わずIntel CPU上で動作するカメラ映像解析システムを作ってみた。使用技術としては以下が主である。

  • Reolink RLC810A(カメラ)
  • YOLO11n-pose/YOLOv8n
  • DeepFace
  • OpenVINO
それなりに動きます
最初の方は精度がよくない・その後改善

Nvidia GPUを使えばNvidia Developerサイトで公開されているような色々ができるのだろうな、と思いつつローコスト重視である。勿論、最も苦労したのは限定されたコンピューティングリソース(Intel CPU)を活用し、そこそこの性能を発揮することだ。

例えばだが、人間はそこまで素早く動かないのでサンプリングレートを落とす(つまり走られると検出がキツイのだが….)、動的にフレームを飛ばす等の施策で動作するようにしている。

「高精度のセキュリティカメラを作ろう」という問いを解くのか「システム全体として限定されたコスト内でセキュアなシステムを作ろう」という問いを解くのかでは全く異なる開発方針になる。

次はこれをAMD Ryzen搭載のMini PCに移植する。6万円のMini PCだがかなり良いパフォーマンスを発揮することを期待している!

ちなみに、この手のものは通信環境も苦労する。カメラに搭載されているアンテナはあまり性能がよろしくないので強い信号がないと動作しない!

これを解決するには壁に穴をあけるかエアコンのダクトからLANケーブルを外に出す(これが出来れば給電も実はPoE給電という形式で解決!)をする必要性がありそうだ。この過程で無線についても色々と学べる。また、脚立を使った工事にも習熟するとやれる物事の幅が広がりそうだ。

広義のエンジニアリング(技術を使った問題解決)に取り組むことでソフト屋は幅を広げることが出来る。ソフト屋にとって実に面白い時代だ。

少し脇道にそれたが、イーロン・マスクが言う所のIdiot Index(価格/原材料費)が高いハードウェア関係サービスをリエンジニアリングするという事業は面白いだろう。

多くの企業は技術負債を持っている。残念ながら自社開発「してしまった」エンジンなどを持っていたりする(チャットボット関係企業にはこれが実に多かった・そして滅びた)。

この自社開発してしまった自前エンジンは最新の公開されているエンジンに対して本当に有利なのか?

開発してしまったから高コスト・低性能でも企業という組織構造上使い続けているだけではないか?そのような製品で、売れている製品を見つけたなら事業機会というわけだ!

留意点としては、必ず「売れている製品」をベンチマークして欲しい。売れていないIoT製品は山程あるが、これをリエンジニアリングしても客がつかないことに変わりはない。

プログラミングスクールで学んだ人がさっぱり分からなさそうなことをやればやるほどに差別化できる。現在ははんだ付けで差別化出来ないか?と探っていたりするが近年のソフトウェアは実に素晴らしく残念ながらはんだ付けの登場機会を発見出来ていない。

余談だが、音楽用にAbletonというソフトウェアを使っている。ギター→ミキサー→PC(ableton)→出力という構成を作ってギターを鳴らしてみたが実に素晴らしい音が出る。実機のアンプやエフェクターのクオリティと比較しても驚く。Midiキーボード(Launchkey)を使えばどのような楽器でも演奏出来る。

本当にデジタルの力はスゴイ。

ちなみに、上ではカメラ+Mini PCというローコスト投資で実現出来る事例を挙げた(10万円未満で実現出来る)。

差別化をしたいなら、デカイ金をハードウェアに払うことだ。極端な話し、100億円の機器を購入しその機器専用のシステム開発するとしよう。これは金による参入障壁に守られていることになる。もしその機器を購入しなければ開発環境が手に入らないならば、競合は参入しようがないからだ。例えば航空機や発電所の運用システムなど一般には中身を想像することは難しいだろう。これは開発環境自体が入手困難だからだ。

ソフトウェアを差別化するならばハードウェアや設備にデカイ金を投資する。ある種、GPUリソースも同様だ(レンタルであったとしても)。逆にPC一台・クラウドで開発出来るソフトウェアは競合優位性は不安定だ。私としてはそのような開発は可能な限り遠ざかりたい。初期投資に守られた技術を開発したいものだ。

AIラボ(ハイボラ枠)

最難関である。一般には基本この選択肢はほぼない、と思ってよいのではないだろうか(勉強としては大変面白いが)。

モデル間の競争も極めて激しい。一瞬、特定分野で性能を発揮出来たとしても即座に追い抜かれ、時代遅れになる危険性にさらされる。

数年、数十年積み上げた技術が一瞬にして瓦解させられるリスクも大変高い。機械翻訳、OCR、音声認識などの例を挙げるまでもなく多くの技術的なレジームチェンジが発生した。

特定の技術に特化していたがそれが瓦解したならば個人、企業はどう振る舞えばよいだろう。この転換は相当チャレンジングである。

AIの研究をしていれば良いリターンが必ず得られるというわけではない。非常にハイボラティリティな事業であり、キャリアである覚悟が必要だ。

基本発想方法:一般的な考えを持った人がやらなさそうなことをやる

そもそもだが、何故新規事業の機会というのは常に発生するのだろう。1つの説明方法として以下2つのギャップが大きくなるから、と考えられるのではないか。

  1. 実際に有用であるもの
  2. 10年程メジャーであった習慣的アプローチ

「実際に有用であるもの」はなんだろう?自分が金を払っているものを考えてみるとよい。

一般には以下のようなものが並ぶだろう

  • 住宅
  • 食事
  • 交通
  • エンタメコンテンツ(レジャー設備含む)

その中で「SaaS・アプリ」費用を考えてみて欲しい!元々世界全体からすればIT単体で済むものは極小である。

しかし、名著「リーンスタートアップ」等様々な書籍はあまりにソフト単体での機会が大きかったため、思考としてはソフト屋思考に偏っていることになる。

実際に金が支払われるためにはハードウェア・不動産・化学品・機械・コンテンツなどが重要なのだが、ソフトウェアの機会があまりに大きかったため、ソフトウェアのみのサービスにやや偏った考えを持っている人が多いはずだ。

思考習慣の練習として「SaaS・アプリ思考」からの脱却を特にソフト屋に対しては推奨したい。

例えば「AIでローコストでSaaSを開発し、The Modelで…まずデモを見せて…」のようなものは過去時代の断末魔のようなものだ。ローコストSaaSは個人事業として否定するどころか、素晴らしいものであるが、会社の命運を託すにはあまりに心細い。何せ競合からの打撃にあまりに脆弱であり、後発の方が必ずローコストかつこちらの手法を学習しているのだ。どう高いマージンを維持しようというのか(個人であれば小さな領域に隠れることが出来るが)。